2016年、新原材料ガイドラインで
バーコード標準化と食品トレーサビリティが大きく変わる。

バーコードの利用は業界の円滑な商取引の促進や製品の安全を求める消費者ニーズの高まり、IT化の促進などで、大きくその役割も拡大しつつあります。
今回はそのバーコードの標準化をとりまとめる流通システム開発センターの取組と最新の食品トレーサビリティの鍵を握る「新原材料ガイドライン」。そして未来のトレーサビリティの展望まで幅広くインタビューを行いました。
 
 
 
一般財団法人 流通システム開発センター
コード管理部・ソリューション第1部担当 西山 智章理事(写真左)
ソリューションサービス本部・ソリューション第1部 森 修子部長(写真右)

 

食品製造業注目の新原材料ガイドライン策定の背景と重要度に迫る。


 
【モノとIT(以下太字)】
まず、はじめに流通システム開発センターさんの成り立ちについて教えていただきたいのですが。
 
【西山氏】
 流通システム開発センターは1972年の設立です。その頃はスーパーマーケットが普及し始めた時期で、流通の分野は他の分野に比べてシステム化や効率化が遅れておりました。こうしたなか通商産業省(現、経済産業省)の産業構造審議会流通部会の答申を受け、流通システム化推進のための専門の推進機関が必要ではないかということで、通産省と民間の協調のもと設立に至りました。
 メーカー、卸売業、小売業にわたる、流通全体のシステム化、効率化を目的としております。最初は伝票の標準化などを行いました。
 
なるほど伝票の標準化から始まったわけですか。
 
【西山氏】
 その頃は取引先が百貨店やスーパーなどに商品を納入する際に、納入先ごとに伝票を替えなければならなかったわけです。
 
その時代にブリュッセルのGS1(*1)本部は存在していたのですか?
 
【西山氏】
 設立当初、流通システム開発センターはGS1(当時はEAN協会)と関わりがあったわけではありません。流通システムの国際的な標準化推進組織であるEAN協会はもともとアメリカのPOSレジシステムが70年代前半に導入され、小売店のチェックアウトの効率化が進んでいる時に、それをアメリカ以外の国でも使えるようにしようという動きから1977年に設立されました。その翌年に、日本もメンバーになり、バーコードの頭二桁の国番号として49番の貸与を受けました。
 
当時のPOSレジから商品番号やバーコードの利用がはじまったわけですね。
 
【西山氏】
そうですね。POSレジからはじまったバーコードが、その後大きく拡がりました。
 
それでは本日の本題「原材料識別のためのバーコードガイドライン」(通称:新原材料ガイドライン)についてお伺いしたいと思います。
2003年に発行した旧版を、今回全面的に見直したとのことですが、それについてご説明をお願いいたします。
 
【西山氏】
 流通システム開発センター内に酒類加工食品メーカーの研究会があり、FoodのFをとってF研と呼んでいます。大手メーカーを中心に60社くらいで組織されています。
そこでの研究テーマのひとつが、原材料入出荷・履歴情報遡及システムガイドラインでした。
 加工食品メーカーでは、原材料の管理に非常に手間がかかり、神経を使っています。この理由の一つは、消費者にわたる最終製品には表示されているバーコードが、原材料には付いておらず、入荷検品や在庫管理、製造段階での原材料投入管理などの一連業務が目検で行われているためです。
 そのため、その日の作業が終わってから、現場の人達は投入した原材料やロットを間違えたのではないか、古い賞味期限の原料を使ってしまったのではないかとか心配になるわけです。
 結局、そのような仕組みを続けていたら安心して製造ができないですよね。そこで、ある加工食品メーカーさんが利用していた仕組みをモデルとして、それをみんなで利用できるようにまとめたのが、旧版のガイドラインになったわけです。
具体的には、原材料メーカーが、原材料のGTIN(※2)やロット、賞味期限などの情報を、バーコード表示する際のガイドラインです。
 原材料メーカーがガイドラインに従って原材料へ表示したバーコードを、加工食品メーカーが受入(入荷)、在庫、製造などの各段階でスキャンすることにより、原材料の動きや利用を正確に把握、確認することが可能になります。
その情報を、製造した商品にヒモ付けておくことで、あとあと出荷した商品に使用された原材料やロットも正確に追えることになります。
 
まさに日本のトレーサビリティの黎明期ですね
 
【西山氏】
ええ、原材料のトレーサビリティですし、在庫管理や製造の管理までできる仕組みですね。現場では粉だらけだったりすることも多いですから、汚れにも強く桁数も多くて、サイズも小さくできるQRコードをベースにしたガイドラインが作成されました。
 
最初の原材料ガイドラインを作成されてから業界の反応はいかがでしたか?
 
【西山氏】
少しずつは普及して行ったとは思いますが、思った以上には拡がりませんでした。
 
普及がはかどらなかった理由と言うのは?
 
【西山氏】
 一番の理由は、このようなバーコードをつけてくださいということを原材料メーカーさんにお願いすることになるわけですけど、当然、手間もコストもかかります。また、バーコード化する項目は標準化したわけですが、必須項目以外の任意項目がけっこうありまして、原材料メーカーさんにとっては、納入先の加工食品メーカーさんから要求される項目に個別に対応が必要になるという問題がありました。
 
なるほど、でこの10年の間にいろいろな問題が表出してきて、今回のガイドラインの見直しにつながっているわけですね。
 
【西山氏】
 それと、10年前には旧ガイドラインの中心だったQRコードが、GS1の標準コードとしてまだ認められていなかったということもあります。GS1では二次元コードの標準はデータマトリックスだけでした。
 その後、携帯電話などの普及により世界中でQRコードの使用が拡がり始めたこともあり、5年くらい前にQRコードが「GS1 QRコード」としてGS1標準に認められました。このため、情報項目を整理するとともに、その情報を表現するバーコードも、GS1標準にのっとった「GS1QRコード」とするということも考慮しました。
 
なるほど、その様にしてQRコードはGS1に認められたのですね。
今回のガイドラインと、旧版のガイドラインで、コード標準化の問題点を振り返っていかがでしたか?
 
【森氏】
 旧ガイドラインでは、「標準」と言いながらいろいろ任意項目があったために、「自社の仕組みにすぐ取り込める項目」を要求されることが多かったと思います。たとえば、どこの原材料メーカーから納入したものか知りたいので漢字やカナで社名を入れて欲しいとか、工場名もいれてほしいとか要求が増えていってしまいました。
 一方、GS1ではバーコードに入れるのは、商品コード(GTIN)や日付、ロットなどのコード化された最小限の情報とするのがルールです。そこには個別の情報を入れようという感覚はありません。つまり、例えば商品に関する情報ならば、GTINをキイに商品マスタを参照して、それに紐づいた情報を利用すればよいという考え方です。
 実際に今回の新ガイドライン策定で協力していただいた原材料メーカーさんも、これ以上得意先別に項目が増えたら対応できないと意見があがりました。
 そういうことからも委員会では「少しでも共通にできる方式がよい」という認識に至りました。
 
なるべく多くの企業が要望どおりにということから、たくさんの項目がいれられるAI(*3)ができたのですか?
 
【森氏】
 アプリケーション識別子(AI)は、GS1でバーコードの中にいろいろな情報を入れたいときに、誰もが同じように理解できるような約束事として、GS1で30年前に制定されたものです。
 
 そうなのですか?であれば素人考えではこのAIで項目数自体は十分なように見えますけど?
 
【西山氏】
 項目数ということであれば、必要なものは既にかなり網羅されていると思います。しかし、例えば商品コードひとつとっても、それが標準コード(GTIN)でなく加工食品メーカー側のコードだったり原材料メーカー側のコードであったりするわけです。
 
もう基本的な商品コード自体が標準化されてないわけですね。
このような状況の中では、特に加工食品メーカーさんが原材料メーカーさんにガイドラインに従ってGTINの利用の働きかけをすることが大切なのでしょうか?
 
【西山氏】
 そうですね。十年前にはじめてガイドラインを作ったときは、まだ必ずしもそういう意識が十分でなかったと思います。しかしこの十年の間、皆さんだんだん標準コードの必要性をご理解していただいたおかげで、今度の新しいガイドラインでは逆に、「標準コードだけでやりとりすることになりますけど大丈夫ですか?」という事務局からの問いかけに対しても、「今まで通りだととにかく利用が拡がらないので商品コードはGTINだけを必須項目にしないとダメだ」と。みなさんもずっと試行錯誤されてきているわけです。
 
やはり徐々に現場のほうでも理解が進んでいたのですね。
 
【森氏】
 当時のガイドラインでは、標準コードを推奨してはいても、加工食品メーカーさんの要望するコードでもかまわないですよと記述せざるを得ないほどの状況でしたから、大きく意識が変わったと思います。
 
では次の質問に移りますが、旧ガイドラインと新ガイドラインではここが大きく変わりましたと強調したいところはありますか?
 
【西山氏】
 繰り返しになりますが、まずは商品コードをお互いGTINに共通化するという部分です。みなさんそれぞれ社内の商品コードをお持ちですけど、それを標準コードであるGTINにいったん紐付けて利用します。今は受発注もお互いにバラバラのコードでやりとりしていますからミスも多いわけです。GTINを利用してやりとりすれば共通の仕組みででき、あとでトレースも利きますし間違いも減ります。
 
商品コードはGTINだけにして各社の商品コードと紐づけて使いましょうと。
 
【森氏】
 GTINから自社コードへの変換は皆さんそれぞれが一回ずつ行い、必要があればそれに付随するデータは商品マスタなどを見に行けばいいでしょうと。
 
GTINを使いましょうという以外に運用ルールの標準化も進めてこられたということですね。
 
【森氏】
 詳細情報は商品マスタを参照するという前提であれば、標準コードとして一番上にGTINが位置し、それに製造日や賞味期限、ロットなどが違ってきますので、バーコード情報として最低限必要なのはこれこれではないですか、という形で項目も絞り込みました。
 前回のガイドラインでは、バーコードを読んでその場で必要なデータを取り込みたいとか、目視して確認したいというようにいろいろ要望が膨らみ、任意項目が増えてしまいました。
 
たしかにシステム的な理解が進んでいない時代では仕方ないかもしれませんね。
次の質問になりますがGTINの海外での普及状況は日本に比べてどうなのですか?
 
【森氏】
 日本ではケース単位には商品コードしか付いていないものが多いですが、ヨーロッパの西側、いわゆる先進国といわれるような国では、GTIN以外にロット番号や賞味期限などの情報がバーコード化されて付いている例が増えています。
 EUの法令により、ロットを追跡できるようにしようという機運が高まってきていることがありますが、その背景には消費者保護の意識が高いことがあるとも考えられます。
 ドイツの大手小売Metroやフランスのカルフールなどが自社のPBをEU内で調達する場合など、ケースやあるいはパレットにシュリンク(パッキング)された単位でその上にロット番号を貼付するような事例が増えています。
 
それは政府が主導でやらせているのか、それともメーカー側が自主的にやるようになってきているか、消費者側からのプレッシャーでやらざるを得ないのか、どちらになるのでしょう?
 
 【森氏】
 EU全体のガイドラインでこのような方針でトレーサビリティをやりましょうというものが決まると、実際にそれぞれの国が法制化するタイミングは異なっているのですが、でも将来は必ず法制化されるであろうことを見越して、早いメーカーさんはすでに取り組んでいるという形です。しかも欧州の大手小売は日本に比べてよりシェアが高く集約されていますので、その意向がより大きく反映されているという感じです。
 
消費者の購買の安心を求める力が集約された大手小売を突き動かしているようですね。
 
【森氏】
川上に対してどんどん動きが拡がっている感じです。
 
またヨーロッパもEU以降商圏が拡がったので、流通の範囲もそれにあわせて拡がった分だけ、対策が必要になっているということもあるのでしょうね。
 
【森氏】
 商圏拡大に合わせて食品のスキャンダルの範囲も拡がっています。A国のB製品に本来入るべきでないCが入っていました、などと頻繁に報道されますので、大手小売もロット番号で追跡をかける必要性に迫られています。
 
確かに日本よりも原材料や加工にもっと多くの国が関わっているという印象が強いのでその分、トレサビに対する取組も切実なものがあるのでしょうね。
 
【西山氏】
 EUでは、ヘルスケア分野でもトレーサビリティの普及が急激に進んでいます。医薬品に偽造薬がまぎれていることも背景となって、EUから指令も出ています。進んだ国では、製薬メーカーが製造段階でパッケージに標準化された二次元コードを印字するのですが、その時にランダム番号も併せてパッケージに印字しています。それを出荷時にすべて読み取って国のデータベースに登録します。薬局や病院では、使用する際にその番号をスキャンしリアルタイムで照合することで真贋判定する仕組みが取り入れられています。
 
それはジェネリック薬品の普及によって偽造薬が増えているのでしょうか?
 
【西山氏】
 流通経路に問題があるようですね。医薬品の場合、日本ですと流通構造がメーカーから卸までしっかり管理されていますが、ヨーロッパでは流通段階で様々な国家や経路を経ていくうちに偽造薬が紛れ込む余地ができるようです。
 
 食品加工も近年、さまざまな添加物などを加えるようになってきているので、食の安全と言った意味からも今後、ますますトレーサビリティに関する消費者ニーズは高まってくるでしょうね。 それでは最後になりますが、今後のトレーサビリティの課題や未来の取組についてお聞かせください。
 
【西山氏】
 例えばある醤油メーカーでは、既に本ガイドラインに沿って商品にバーコードを印字して出荷しています。その際、商品を出荷した先の卸売業までは終えるけど、そこから先、最終的に自社の商品がどこへ販売されているかまではわからないというわけです。 
 そこをどう末端まで追えるかというのが、これからの課題になっていくのではないかと思います。
 
川上に追うトレーサビリティの逆で、川下に追えるようなトレーサビリティの仕組みですね。
 
【西山氏】
 この対応の一つとして、GS1ではEPCISという仕組みの取り組みが始まっています。バーコードや電子タグの情報が、商品の移動に伴って各経由地点で読み込まれ、移動履歴データとしてプールしておくことにより、それを皆で利用できるような仕組みです。ドイツなどでは先ほどでも話題に上りましたMetro社が、鮮魚のトレーサビリティにこのシステムを取り入れています。
 
それはすごいですね。今後、日本にも徐々にそのような流れになってくれば非常に楽しみな時代になりますね。最後にとても有用なお話をお伺いできました。本日はどうもありがとうございました。
 
(エピローグ)
ここ10年の間で食品製造業の中では大きな意識の変化が訪れていたようです。消費者保護の観点からも、今後はコード標準化の流れが法制化するような未来も遠くはないかもしれません。もちろん、標準化を進めることで社会全体の利益につながるような流れは食品業界に限らず大きな世界の潮流であることに異論がある人は少ないでしょう。標準化とオープン化の2大潮流、製造業に関わる企業としては今後とも目が離せません。
 
 

GS1(*1):
流通コードの管理及び流通標準に関する国際機関。先に北米でバーコードの標準化と普及をすすめていたUCC(Uniform Code Council,inc)に対して、それ以外の地域を対象として1977年に設立されたEAN協会が前身。2002年のUCCのEANへの加盟を経て、2005年に世界統一組織としてGS1が誕生。流通システム開発センターは国際的にはGS1 Japanという名称で活動している。
 
GTIN(*2):
Global Trade Item Number。GS1により標準化された国際標準の商品識別コードの総称。従来、北米地域ではUPCコード、北米以外の地域ではEANコードと呼ばれ、また例えば日本ではEANコードをJANコードと呼ぶなど、これまで地域や国によってバラバラに呼ばれていた商品識別コードの呼称を統一したもの。
例えばEANコードやJANコードの13桁の標準コードや8桁の短縮コードは、それぞれGTIN-13、GTIN-8と呼ばれる。
 
AI(*3):
Application Identifier の頭文字を取りエーアイと呼ばれる。GS1が標準化した、さまざまな情報の種類とフォーマット(データの内容、長さ、および使用可能な文字)を管理する2桁から4桁の数字のコード。

 
(完)
 

【問い合わせ先】
一般財団法人 流通システム開発センター
http://www.dsri.jp/