県内企業だけでなく日本の製造業も支えている
神奈川県産業技術センター。
かなり使える技術支援の中身に迫る。

 

【モノとIT】では、さがみロボット産業特区への取材を通じて当プロジェクトを基盤から支えているのが神奈川県産業技術センターであることを知りました。そこで自治体が運営するこれらの施設がどこまでオープンでどこまで実用的に製造業が利用できるのかを確かめるために、改めて神奈川県産業技術センターの企画部企画調整室長の宮澤以鋼工学博士と研究開発連携室長の櫻井正己氏にインタビューに答えていただきました。

 
 
 

神奈川県産業技術センター
企画部企画調整室長
宮澤以鋼工学博士(写真左)
研究開発連携室長
櫻井正己氏(写真右)

 

神奈川県産業技術センターが取り組む中小企業の技術支援4つの柱とは?


 
まずはじめに神奈川県産業技術センターのなりたちと歴史についてお話をいただきたいと思います。
 
【櫻井氏】
 前身は神奈川県工業試験場で、昭和4年4月に設立されました。その後は地場産業の支援を行う織物指導所や工芸指導所など、ニーズに応じて支援機関を設立しまして、それらの工業系支援機関4機関を統合して海老名市下今泉に神奈川県産業技術総合研究所としてスタートしました。その後、名称を産業技術センターに改称し、現在に至ります。また、一部、小田原には工芸技術センターが支所として残っております。
 
 産業技術センターは県内外の中小企業の技術支援のために4つの柱、「ものづくり支援」「研究開発」「人材育成」「技術情報、交流・連携」を行っているとのことですが、これについて順番にお伺いしたいと思います。それではまず一番目の「ものづくり支援」について。
 
【宮澤氏】
 こちらの「ものづくり支援」は当センターのメインとなっている支援事業です。その中でも依頼試験と機器使用、受託研究が主なものとなっています。国の補助金や県の予算によって、中小企業様が個別ではなかなか手の届かない高価な機器を整備して、皆様に安く使っていただきましょうという仕組みです。
 依頼試験と機器使用は基本的に同じ機器を使用しているのですが、依頼試験は当センターの職員が依頼を受けて試験を行い、成績証というものを発行いたします。機器使用はいわゆる機器の開放利用、お客様が自分で試験を行い自分で結果を持ち帰るような仕組みになっています。ただし装置によりましては、操作が難しいものですとかX線を利用しているので危険なものとかがございますので、一般に公開してないものもございますのでお問合せください。
 次に受託研究ですが、企業様などからいろいろな要望を受けまして、開発を中心に有料で行っております。
 
受託研究はこちらのセンター職員の方々が担当していただけるとのことですが大体、何名くらいの技術系職員の方がいらっしゃるのですか?
 
【宮澤氏】
今、現場で言うと技術の職員は90名くらいですね。
 
非常に多いですね。こちらの技術職員の方はいつでもオープンに「こういう受託研究をお願いしたいのですけれども」という相談にのっていただけるのですか?
 
【宮澤氏】
 相談自体は無料になっておりますので、大丈夫です。
 
こちらでは開発や試験にとどまらず具体的な製品化や事業化に向けてさまざまな支援があるということですが、それについてお聞きしたいのですが。
 
【宮澤氏】
 最終製品を目指してなにか開発しようと言う支援ですね。ひとつには実験室を企業さんにインキュベートオフィスとしてお貸ししそこで開発していただくケースとここへ来所して行なっていただくタイプとございます。また、県内の中小企業様に対して神奈川工業技術開発大賞という表彰事業を神奈川新聞社と共催で年に1回やっております。もうひとつは神奈川県中小企業開発等支援事業補助金になります。
 
特に目に付いたのがこちらのパンフレットにあるデザイン支援事業と言う取組は面白いですね。
 
【宮澤氏】
 「さがみロボット産業特区」の案件を中心にセンターがデザイナーを派遣して、一緒にデザインを考えていくと言った支援を行なっています。今はメインでやっているのはロボット関連ですね。売れる商品を作りましょうと言う支援を行なっています。
 
 今まで下請中心でやっておられた製造業の企業様としては、たしかにデザインは特に弱い部分かもしれませんね。
 
【宮澤氏】
 結構難しい問題で、一般ユーザーと触れるところはデザインが必要ですからね。たとえばクルマの一部品をつくっているような企業だとデザインはそこまで要求されませんからね。最近では独自の技術を持っている企業だと、親会社に頼らないでいろいろな事業を自ら展開したいなどのニーズもあります。
 
 インターネットの普及で独自の販売網を築けたりとか、IoTの流れなどが加速している現在、中小企業にとっては直接マーケットにアプローチできることはチャレンジのしがいがあります。そういった部分からもデザインの支援は助かりますね。
 それでは次の「研究開発」の支援について櫻井さんにお伺いしたいと思います。
 
【櫻井氏】
 研究開発の一番のベースになるのは「経常研究」です。これは技術支援を担当するものが技術レベルを維持したり向上させたりするために行う研究です。したがって皆様に直接影響はありませんが、我々自身の技能を伸ばし、研究開発、技術支援に活かしていくといったものになります。
 
 技術の基礎となる部分や最先端の技術を常にキャッチアップできるように職員が能力の維持・向上を行っている。ひいてはその蓄積が相談先の企業へのサポートにつながっているという意味では心強いですね。
 
【櫻井氏】
 つぎに「技術開発可能性評価試験」という事業がございます。中小企業様が新規成長分野。エネルギー、環境、ロボットであるとかそういった分野について取り組み始めたりする場合には、最初の取っ掛かりがなかなか難しいという部分がありますので、我々、産業技術センターの職員が一緒にやりましょうとお手伝いをする取組です。
 
 たしかに新しい分野を企業が独自にチャレンジする場合は、どうしても考え方が独善的になってしまったりとか、ごく基本的なことを見落とししたりする危険性がありがちです。
 
【櫻井氏】
 そうですね。そこを一緒にやりながら可能性を探っていくといったものになります。このまま開発を続けていっていいものかどうかを判断するお手伝いをするわけです。
 そのかわり試験の結果につきましては、我々も公共機関として協力するわけですから、可能な限り公表させていただきながら、特に良い結果が出たものについては、新成長分野への参入のモデルケースとして皆様に事例を公表させていただくこととなっています。皆様もそれを参考に取り組んでいただいて、成長分野への参入を促していければと考えております。
 そういった可能性評価を経て、なんとか目処がついたものに関しましてはさらに資金が必要であると言う場合には国の補助金などへの応募についてもお手伝いをさせていただきます。
 
 補助金申請のノウハウが豊富なこちらのセンターに手伝っていただけるのは企業にとっては大きなメリットかもしれません。それでは次の柱になりますが「人材の育成」についてお伺いいたします。
 
【宮澤氏】
 こちらはいくつかのタイプがございまして、まずは「中小企業研究開発人材育成」ですが、中に二つのコースがございます。①課題研修と②コース研修がございます。課題研修と言うのは企業様が、教えて欲しいとか研究したいとか課題があって、それに対してセンターの職員が自分の技術を持って、研修のプログラムから相談しながら研修を行うものです。コース研修はたとえばIoTですとかセンターがコースをあらかじめ設定して、企業様に来ていただいて研修を行うもので大体1日から2日間が多いです。
 ほかには高度技術活用研修と言うものがございまして、こちらは非常に長期に渡るものです。3つの学科がございまして①機械②電子③化学と。それぞれ長いコースになりますと10ヶ月に渡って行っております。座学で240時間、実習で70時間、あわせて310時間くらいやっております。コースによっても違いますが大体週1から週2くらいのペースです。
 最後の研究生の受け入れですがこれは不定期でやっておりまして、分析機器ですとかの研修でありますとか、研究開発のために研修生としてセンターに受け入れるとか行っております。個別で受け入れることもございますが、受託研究と併せて必要な技術習得のお手伝いをするために受け入れることもございます。
 
 次の「交流・連携」について。この取組は産業技術センターに興味を持った企業が、まず最初の取っ掛りとして利用するには最適ではないかなと思います。
 
【櫻井氏】
 そうですね。まず「神奈川R&Dネットワーク構想」ですが、神奈川には大企業の研究開発拠点が非常に多いのですが、それが点としてあるだけでは地域の強みとして活かせないということで、それを繋いでネットワークをつくろうと考えました。具体的には「神奈川R&D推進協議会」という組織がございまして、各研究拠点の皆様にご参加いただいて技術連携を促進する活動をしています。 
 この取組みの主なものとして技術マッチングがございます。中小企業様の提案を大企業様に繋いでいくものです。また、企業規模に関わらず参加いただける、ロボットとか環境エネルギーとかライフサイエンス等のキーワードで研究会を運営しています。その中でフォーラム等を開催してセミナーで勉強したり、お互いに展示をしたりして、活発に情報交換や技術連携の検討を行っております。
 
 フォーラムと研究会の数と言うのは大体どのくらいあるのですか?
 
【宮澤氏】
フォーラムはだいたい年間50くらい開催していますね。
 
 フォーラムと研究会の具体的な違いとはどのようなところですか?
 
【櫻井氏】
研究会はあらかじめ登録するグループのことを指しておりまして、その研究会の活動として開催するものをフォーラムと呼んでおります。
 
 こちらはあらかじめ応募すればどのような企業でも参加できるのですか?
 
【櫻井氏】
 はい、企業規模や県内県外に関わらずご参加いただけます。この中で一番メインとなるのが「ものづくり技術交流会」というイベントになります。今年(2016年)は10月の26・27・28日の3日間で開催されます。
 
こちらの産業技術センターで開催されるのですね。
 
【櫻井氏】
はい。3日間連続でロボットであるとかいろいろなテーマのフォーラムを一堂に開催して技術連携のきっかけとなる議論等、交流していただく会となっております。
詳細につきましては決定次第ホームページ上に情報をアップいたしますのでぜひご参加いただきたく、よろしくお願いいたします。
 
 この催しは毎年、大体どれくらいの企業様が参加されるんですか?
 
【宮澤氏】
 のべ人数になりますと毎年千人くらいは参加されます。研究発表はその年によりますが、企業だけでなく大学等もございますが、数十から百以上はあると思います。
 
たとえば、今までは製造業が主体であったとは思うのですが、IoTなどの流れからシステム開発やソフト開発の企業がこれから参加していくようなこともありますか?
 
【宮澤氏】
IoTに関しましても現在、研究会ができておりまして、そちらのフォーラムも9月10月には開催予定になっているので、情報関連企業の方々もぜひ参加してみてください。
 
 

今後、本格的になっていくIoTの流れに対しても、
工場の擬似生産ラインを整備する予定。


 
IoT関連の話題が出てまいりました。【モノとIT】がメインに扱っているテーマですので、こちらについて詳細な情報をお聞きしてもよろしいでしょうか?
 
【宮澤氏】
  はい。IoT研究会は国の補助金事業で地方創生加速化交付金というプロジェクトがございまして、その二十七年度補正予算で神奈川県と埼玉県の二県が地域連携をとりまして中小企業のIoT化支援と言う形で事業を組んでおります。
  この中に三つの大きな事業がございます。ひとつめがこのIoT研究会です。この研究会では年間で4回大きなフォーラムを開催いたします。中小企業様の場合、まずIoTの基本的なところから解説してあげないといけないので、技術の紹介と普及と言う意味でこれを行っております。
  二番目の事業としましてはIoTラボの整備です。このセンターの特徴のひとつとして他の都道府県では実施していない、工場で使われているネットワークの認証試験を行っております。けっこう長い時間、はじめてからもう17年目になるのですけれども。そういった認証試験の実績がございます。工場のネットワークも近年では高速イーサネットに移りつつある中で、その中の設備の購入とクラウド環境も整備する予定です。
    実際に簡単なコンベアで生産ラインをつくりまして、企業様に来ていただいてハードも使ってネットワークも使って、学習できるような環境を整備いたします。それから自分で開発してここで動作確認など検証もできるように設備を整えたいと予定しております。
  三番目の事業としましては実際の企業様に開発していただく委託事業になります。その中にも三つのテーマがございまして一つ目はスマートメンテナンス。もうひとつは工場のエネルギー管理。三番目はフィールド機器の通信ユニットの開発になります。
  こちらの三つのテーマにつきましてはすでに委託先の企業は決定しているのですが、完成後には製品を前述のIoTラボに納品していただくことになっております。そこで一部公開できるところは、企業様に対してこういう活用方法がありますよと実例で示そうという取組になります。
 
やはりIoTに関しては特に力を注いでおられると言うことがよくわかりました。それでは、最後の取組になりますが技術情報の公開についてお伺いいたします。
 
【宮澤氏】
 当センターでは技術情報の公開と言うことでさまざまな取組を行っておりまして、ひとつは「かなマポ」(http://www.kanagawa-iri.jp/MatchingPortal/)というサイトを運営しております。これは企業様同士の技術連携を促進するマッチングポータルです。企業情報と研究情報を提供したり国とか県の補助金やイベント情報も公開しています。
 それ以外には刊行物を出してまして、産業技術センターで言いますとニュースがございます。年4回発行しています。ほかには年1回研究した結果をまとめた研究報告を出しております。
 さらに特長的なものとして、知的財産に関する支援と言うのがございまして。この施設の地下1階に知的所有権センターの県の本部がございます。ここでは企業様に対して無料の特許相談を行っております。
 
特許に関しては調べたり手続きしたりするのがかなり大変ですし、企業にとっては助かりますね。
 
【宮澤氏】
 予約制となっておりますが、第一と第三水曜日の午後に、発明協会から専門家の方を派遣していただいて無料の相談会を開催しております。
 他にも地下では技術関連の雑誌とか洋雑誌とかが豊富な図書室があります。特にJIS規格は出版されたものに関してはすべてしっかりとすべて揃えて閲覧できるようにしています。特徴としては県の図書館と同じ基準で運営されておりますので、どなたでも気軽にご利用いただけるようになっております。
 
こちらの図書館を利用する際には予約などは必要になりますか?
 
【宮澤氏】
当センターの営業時間であれば予約無しにご利用いただけます。
 
県内に限らずものづくりを目指す企業であれば、研究、開発に関わらず製品化や企業マッチングまで非常に広範囲にというよりも全面的にサポートを受けられると言う印象が強く残りました。本日はお忙しいところありがとうございました。
 
 
 いかがでしたでしょうか?おそらくすでに自治体の施設の支援を利用している企業にとっては当たり前の内容だったかもしれません。しかしデザイン支援や技術研修、企業マッチングなど意外に知られていない支援も多いのではないでしょうか?神奈川県産業技術センターは企業のあらゆるシーンで支援できるように日々最新の技術トレンドを追いかけながら進化しているのだと考えると、むしろ製品の企画から販売にいたるまですべてのプロセスでとりあえずなにか役に立つ支援はないものか?と探してみるのが、現代の企業にとっては必要なことではないかという印象が残ったインタビューでした。
 
(完)

 

 

【問い合わせ先】
神奈川県産業技術センター
http://www.kanagawa-iri.jp/